セミ等を大量に公園で採集することを禁ずることについて

ニュースで杉並区立の公園において、セミ採集に関する看板が取り上げられました。

「食用」という単語のインパクトは大きかったようで、ネット上でも話題になったようです。

 

ANN

https://www.youtube.com/watch?v=BYtPl_upf5g

NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200831/k10012586271000.html

 

食用目的で大量にセミ採集することを禁ずる看板は、昨年ごろから首都圏の公園で見られるようになったようです。

「誰が大量に採集したのか」「本当にセミを食用に採集したのか」は当会では関知しておりませんし、ニュース以上の詳しいことは分かりません。

 

しかし、本件は大変興味深い事であると捉えており、改めて当会の見解をここに記させていただきます。

 

セミの食用採集禁止の立て看板は、今後の日本の昆虫食を占うよい事例であると捉えています。

近年昆虫食は大きな注目を浴びています※1

今後昆虫食が普及し、食用目的での採集が極端に進めば、当然昆虫種の絶滅にも繋がっていくことになります。ウナギをはじめとする水産資源の枯渇が懸念されていますが、食用昆虫※2もまた同じ運命をたどることになるでしょう。

 

公園での昆虫採集については、明確に禁止している公園のほか、「子供の虫取り程度まで」「常識の範囲で」といった回答など、公園管理の方針が異なります。

地域によって生物保全の度合いは異なっており、大人がそれなりの規模の採集をする際には、きちんと管理者に問い合わせてみる必要があるでしょう。

 

しかし、昆虫採集は食用であれ何であれ、大人でも楽しいものです。

子どもの遊びだけにしておくのはもったいない。

食用昆虫の採集は釣りやキノコ狩りなどと同様、私たちが豊かな生活を送る上で、ヒトとして根源的な営み※3の一つになりうると捉えています。

長野県のザザムシ漁のほか、岐阜県の蜂の子狩り(ヘボ狩りとも呼ばれている)を始め、経済的な利益がほぼないにも関わらず、大人たちが真剣になって楽しむ文化が残されています。

 

セミをどれだけ採ればどれだけ減るか、生態系にどのような影響が出るかは今のところはっきりとした結論は出ていません。

残念ながら、セミだけでなく一般的な昆虫種の個体数調査はほとんど行われていないのが現状です。

この点は今後きちんとした調査が必要です。

ただ、一般に絶滅危惧種や個体数が著しく減少している地域でなければ、数人が数時間手でとった程度の採集量でその昆虫の存続に影響があるとは思えません。

 

生態系の保護と流通を両立させためには、採集の禁止ではなくさらに踏み込んだルール作りを進めるべきです。

食用昆虫の採集を魚釣りや潮干狩りのようなものととらえると、水産物の漁業権や遊漁権、遊漁期間の設定などが参考になります。

実際、長野県で水生食用昆虫を採集するザザムシ漁では、漁業権や遊漁期間が設けられています。

 

食用セミ大量採集禁止の立て看板は、昆虫食についての関心を促し、私たちがよりよく昆虫と共存・管理していく方法を模索していく上でよい議論の土台を提供してくれたと思います。

食用昆虫科学研究会一同

 

※1 昆虫食はなぜ注目されているの?

2013年に国連食糧農業機関(FAO)が、持続可能な社会における昆虫の飼料・食用としての価値を紹介する報告書を発表しました。主要な家畜との比較において地球環境負荷が低いタンパク源であることを報告し、欧米で食用および飼料用昆虫を養殖・販売するベンチャー企業が数多く立ち上がっています。

 

※2食用昆虫について

セミだけでなく、イナゴ、ザザムシや蜂の子、コオロギ、カイコなどと言った昆虫が日本でも食されています。日本では種が食されていました。世界では2100種、20億人が昆虫を食べています。

 

※3人として根源的な営み

昆虫を採集し、調理し、仲間たちと共に食べるという一連の営みを指します。こういった経済的に無価値ともいえる人間の活動も、人間が豊かに生きるうえで重要な役割を果たすことがあるというとらえ方です。ちなみに、私たちは野外から採集する新鮮な食用昆虫を「プチジビエ」と呼んでいます。野生の鳥獣肉を「ジビエ」として楽しむことにちなんだ名称です。

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